【背景技術】
【0002】
近年、インスタントコーヒーにおいても、消費者の本格嗜好の高まりによってレギュラーコーヒーに近い香りが要求されている。特に製品を開封した時に香ばしい香りがすることは、消費者が飲用するときまで強烈な印象を与え、製品に対して良い印象を与える効果があると言われている。しかしながら、一般的にインスタントコーヒーは、焙煎、粉砕されたレギュラーコーヒーに存在する新鮮で快い香りは少ない。これは、インスタントコーヒーの製造プロセスで抽出、濃縮、乾燥過程において香気成分の殆どが失われる事に起因している。また、この香気成分の損失は、消費者がインスタントコーヒーを敬遠する主な原因となっている。よって、先行技術にはインスタントコーヒーに関してアロマ品質の改善方法やアロマ強化方法が多く開示されている。
【0003】
これら先行技術で現在最も一般的に利用されている方法は、コーヒーオイルの利用であり、圧搾によりコーヒー豆からコーヒーオイルを得る技術も開示されている(例えば、非特許文献1を参照)。得られたコーヒーオイルをインスタントコーヒー粒子へ噴霧してアロマを強化する方法は、コーヒー業界で広く利用されている。しかしながら、焙煎、粉砕されたレギュラーコーヒーの新鮮で心地よいアロマには程遠い品質でしかない。これは、前記圧搾法は香気が豊かな製品を得るのに効率的であるが、圧搾に必要な温度と圧力の条件の為に多かれ少なかれ焦げ臭を伴うからである。
【0004】
また、良質な香を有するコーヒーオイルを得るためには、アラビカ種に代表される高価コーヒー豆を炒り立てで原料にするため、品質的に優れていてもコスト高になり、利用できる量には限界がある。よって、このようなコーヒーオイルは、その効果を認識できるほど添加することが実質的に難しい。
【0005】
さらに微粉砕したコーヒー炒り豆とコーヒーオイルの混合物をインスタントコーヒーに混合し、インスタントコーヒーに炒り豆の持つアロマ、フレーバーを組み入れる方法も開示されている。例えば、特許文献1には、コーヒー炒り豆約5〜約70%と食用油約95〜30%の混合物を微粉砕し、コーヒー炒り豆の粒度が約0.1〜約20μmにしたスラリーをインスタントコーヒーと混合することが開示されている。
【0006】
一方、インスタントコーヒーのアロマを強化する方法として粉砕アロマを利用する技術がある。たとえば、焙煎豆の粉砕中に発生するコーヒーアロマガスを極低温捕集器に捕捉し、アロマフロスト粒子として回収し利用する方法が知られている(特許文献2を参照)。また、アロマフロストをコーヒーオイルへ回収し、インスタントコーヒー粒子へ添加することでアロマを強化する方法も知られている(特許文献3、4を参照)。これらの技術はインスタントコーヒーのアロマを強化する方法としては有効な方法であるが、アロマフロスト粒子を生成する過程において−100℃を下回る極低温で捕集しなければならず、実用条件が極めて高度で複雑な過程を必要とする技術である。また、装置も大掛かりで高価な装置が必要と考えられる。
【0007】
前記方法以外にも、様々な方法が知られている。例えば、圧搾法で得られたコーヒーオイルに乳化剤を添加し、ホモジナイズすることによってコーヒーオイルエマルションを生成する方法が知られている(特許文献5を参照)。このエマルションをコーヒー抽出液に添加することで缶コーヒー飲料やペットコーヒー飲料の開栓時のアロマを改善するとされている。また、水蒸気蒸留抽出法で得られたコーヒーフレーバーとコーヒーオイル乳化物とを混合してコーヒーフレーバーを生成する方法が開示されている(特許文献6を参照)。また、焙煎したての新鮮な炒豆を凍結粉砕し、得られた45μmのコロイド状コーヒー生成物をコーヒー抽出液に添加後に乾燥して可溶性コーヒー粉末を得る方法が開示されている(特許文献7を参照)。しかしながら、この方法では、粒子径が45μmであるので溶解後にカップの底に不溶性粒子が残ってしまい、消費者は異物と勘違いすることが考えられる。
【特許文献1】特開平6−38681号公報
【特許文献2】米国特許第5222364号明細書
【特許文献3】米国特許第5229153号明細書
【特許文献4】米国特許第5323623号明細書
【特許文献5】特開2001−86933号公報
【特許文献6】特許第3035305号公報
【特許文献7】特公昭61−32944号公報
【非特許文献1】コーヒーテクノロジー(Coffee Technology ),Sivets & Desrosier, AVI Publishing, 1979, 第2 章
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明において、コロイド状のコーヒー粒子を製造するために用いるコーヒー炒り豆は、特に限定されるものではないが、コーヒーの芳香と風味を提供するためには、アラビカ種またはロブスタ種のコーヒー豆であって、その焙煎度がL値16〜23であるものが好ましい。コーヒー炒り豆は、新鮮なアロマの損失を防止する観点から、0℃以下に冷却しておくことが好ましく、−15〜−5℃がより好ましい。
【0022】
本発明に用いる食用油は、一般に食品業界で使用される油であれば特に限定されるものではなく、植物油または動物油脂があげられる。植物油としては、例えば大豆油、パーム油、ひまわり油、なたね油、やし油、綿実油、落花生油、オリーブ油、パーム核油、米ぬか油、とうもろこし油、サフラワー油、コーヒー油などがあげられる。動物油脂としては、例えばヘッド(牛脂)、ラード(豚脂)などがあげられる。これら食用油の中から、添加する食品に応じて適宜選択することができるが、コーヒーの芳香と相性がよい点から植物油が好ましく、コロイド状コーヒーと同じ原料に由来するコーヒー油がより好ましい。
【0023】
前記コーヒー油は、前記コーヒー炒り豆と同等に焙煎した炒り豆、またはその炒り豆を粉砕し水、熱水等で抽出しした抽出済み炒り豆を、常法により圧搾機で加圧・加熱下に処理することにより得られる。コーヒー油の圧搾は、例えば、「コーヒーテクノロジー(Coffee Technology )」,Sivets & Desrosier,AVI Publishing, 1979, 第2 章に記載された方法に準じて行うことができる。
【0024】
本発明の芳香食品の製造方法は、コーヒー炒り豆10〜50重量%と食用油90〜50重量%とを混合し、得られた混合物を粉砕し、コロイド状コーヒー粒子を含有するコーヒー油を得る工程を含む。
【0025】
コーヒー炒り豆と食用油との混合割合は、食用油に十分アロマを付与し、油脂としての性状を維持するためには、豆10〜50重量%に対し、食用油90〜50重量%が好ましく、豆10〜35重量%に対し、食用油90〜65重量%がより好ましい。
【0026】
混合方法は、適宜常法により行えばよく、特に限定されるものではない。例えば、容器にコーヒー炒り豆と食用油とを前記割合で投入し、攪拌する方法があげられる。
【0027】
粉砕は、混合物の品温が上昇してコーヒーアロマの損失を生じないようにして行う。このような粉砕方法としては、ジャケット式の粉砕機を使用し、混合物の品温が40℃以下の条件で粉砕方法があげられる。前記品温は、20℃以下が好ましい。
【0028】
本発明においては、コーヒー炒り豆を微粉砕することから、粉砕工程を粗粉砕工程と微粉砕工程との2段階で行うことが好ましい。
【0029】
2段階の粉砕方法として、最初に前記混合物を粗粉砕用湿式粉砕機に投入する。投入された混合物は40℃以下、望ましくは20℃以下の条件でメジアン径20〜40μmに粉砕処理し、粗粉砕物を得る。
【0030】
前記粗粉砕物を、さらに微粉砕湿式粉砕機に投入し、冷却しながらメジアン径10μm以下に粉砕する。このようにして得られるコロイド状コーヒー粒子を含有する食用油は、香料として食品に添加した際に残粒感がないようにするためには、当該粒子のメジアン径が10μm以下であることが好ましく、3〜8μmがより好ましい。前記メジアン径は、レーザー回折・散乱法により測定した値である。
【0031】
前記コロイド状コーヒー粒子を含有する食用油のアロマ特性は、非常に刺激が強い芳香性を持ち、焙煎豆を粉砕した時に匂う粉砕アロマの特性を持っている。
【0032】
次いで、コロイド状コーヒー粒子を含有する食用油を、食品に噴霧する。
【0033】
噴霧方法は、噴霧対象の食品に応じて適宜公知の噴霧装置を使用し、所定の剪断力を前記食用油に加えることにより行う。ここで、所定の剪断力とは、用いる噴霧装置により一義的に規定することが困難であるので、噴霧した食用油の液滴サイズを目安にする。すなわち、前記液滴サイズは、噴霧装置を用いてガラス板に噴霧したときの液滴サイズを顕微鏡下で観察、測定することにより求めた値をいう。液滴サイズの具体的測定方法は、実施例に記載されている。
【0034】
前記液滴サイズは、液滴サイズがほぼ正規分布を示すことから、本発明においては90%積算径で表わす。前記90%積算径は、200μm以下であり、150μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。液滴サイズをかかる範囲内に調整することにより、食用油に含まれる、一旦凝集したコロイド状コーヒー粒子を再分散化させ、再凝集を抑制することができる。
【0035】
前記噴霧装置は、食用油にせん断力を加え微小に噴霧できるスプレーノズルであればよいが、一般的に2流体ノズルが適している。
【0036】
噴霧対象の食品は、コーヒーのアロマを付与して芳香に富む食品を製造することを目的とするものであれば特に限定されるものではないが、例えば、コーヒー製品、菓子またはパンが好ましい。
【0037】
前記コーヒー製品は、インスタントコーヒー、レギュラーコーヒー、コーヒー飲料、コーヒーゼリーなどが好適な例としてあげられ、製造過程でアロマの損失が大きいインスタントコーヒーがより好ましい。
【0038】
インスタントコーヒーに噴霧する場合、食用油としてコーヒー油を選択し、スプレーノズル等を用いてインスタントコーヒーに直接噴霧する方法や、流動層にスプレー装置を備えた造粒コーティング装置を用いて添加する方法などがあげられる。
【0039】
前記菓子は、ケーキ、ムース、プディング、クッキー、ビスケットおよびキャンディーなどの洋菓子、寒天、羊羹および饅頭などの和菓子が好適な例としてあげられる。
【0040】
前記パンは、食パン、フランスパン、コッペパン、ベーグルおよび菓子パンなどが好適な例としてあげられる。
【0041】
また、本発明は、前記芳香食品の製造方法により得られた芳香食品に関する。
【0042】
芳香食品としては、前記した食品にコーヒーのアロマを付与したものがあげられるが、製造過程でアロマの損失が大きいインスタントコーヒーを芳香化して得られる芳香インスタントコーヒーが特に好ましい。
【0043】
芳香インスタントコーヒーは、溶解飲用時に入れたてのコーヒーの風味を持ち、カップでの沈殿がなく懸濁安定性に優れ、滑らかな口当たりのコーヒー飲料を提供することができる。
【0044】
[実施例]
以下、実施例等により本発明を詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例等により何ら限定されるものではない。
【0045】
[製造例1]
コーヒー油とコーヒー炒り豆微粉砕物からなる芳香油の調製
1.混合工程
圧搾法で得られたコーヒー油と炒豆サントス(焙煎度L値18.0)を重量比2:1で密閉容器へ投入したのち、攪拌してコーヒー油と炒豆の混合物を得た。使用したコーヒー油の品温は20℃、炒豆サントスの温度は−15℃に調整して、使用した。
【0046】
Coffee Technology ,Sivets & Desrosier,AVI Publishing, 1979, 第2 章に記載の圧搾法に準じて得られたコーヒー油と炒豆サントス(焙煎度L値18.0)を重量比2:1でミキシングタンクへ投入した。コーヒー油は20℃、炒豆サントスは−15℃に冷却したものを用いた。次いで、前記コーヒー油と炒豆を室温で1分間攪拌し、コーヒー油と炒豆の混合物を得た。
【0047】
2.粗粉砕工程(予備粉砕工程)
前記工程1で得られた混合物を湿式粉砕機(セレンディピターミニ、増幸産業(株)製)に投入し、メジアン径が40μm以下になるように粗粉砕処理した。粉砕条件は、スリット(隙間)40μm、ディスク回転数2000rpm、供給量0.5kg/minであった。粗粉砕後の油に含まれている炒豆のメジアン径は、24μmであった。
【0048】
3.微粉砕工程(最終粉砕工程)
前記工程2で得られた粗粉砕物を、ジャケット式微粉砕用湿式粉砕機(横型湿式超微粉砕機NVM−03、アイメックス(株)製)に送液し、微粉砕を行った。粉砕条件は、スリット(隙間)0.1mm、ディスク回転数2674rpm、ジルコニア製ビーズ使用(粒子径0.5mm、充填率85%)、供給量0.04kg/minであった。微粉砕後のコーヒー油に含まれる炒豆の最小粒子径は0.53μm、メジアン径は4.1μm、最大粒子径は37.0μmであった。得られた芳香油は、下記実施例および比較例で使用した。
【0049】
前記工程2、3におけるメジアン径は、マイクロトラック粒度分析計HRA9320−X100(日機装株式会社製)を用いてレーザー回折・散乱法により測定した。
【0050】
[実施例1および比較例1、2]
1.インスタントコーヒーへの噴霧
製造例1で得られた芳香油を、原料がサントスコーヒー豆のフリーズドライインスタントコーヒーに噴霧した。噴霧条件は、以下の通りである。
【0051】
コーティング装置:ヤマト科学(株)流動造粒装置パルビスミニベットGA-21
ノズル:ノズル口径φ711μm
芳香油の温度:41〜45℃
ノズルエア圧:0.2kgf/cm
2(19.6Kpa、比較例1)、0.6kgf/cm
2(58.8Kpa、比較例2)、1.0kgf/cm
2(98.1Kpa、実施例1)の3段階
噴霧量:インスタントコーヒーに対して0.5重量%
2.噴霧時のノズルエア圧と液滴サイズの検討
前記各ノズルエア圧下で噴霧した場合の芳香油の液滴サイズを調べた。芳香油の液滴サイズは、噴霧ノズル下5cmにスライドガラスを通過させ、ガラス表面に噴霧された油の液滴を顕微鏡にて観察することにより調べた。ノズル圧が高いほど、オイルの液滴は細かく噴霧された(図1)。
図1A:19.6KPa で噴霧時の液滴サイズの90%積算径は500μm(比較例1)、
図1B:58.8KPa で噴霧時の液滴サイズの90%積算径は300μm(比較例2)、
図1C:98.1KPa で噴霧時の液滴サイズの90%積算径は150μm(実施例1)であった。
【0052】
[実施例2および比較例3、4]
液滴サイズとインスタントコーヒー噴霧塗沫後の溶解液の沈殿
製造例1で得られた芳香油を、原料がサントスコーヒー豆のフリーズドライインスタントコーヒーに噴霧した。噴霧条件は、以下の通りである。
【0053】
コーティング装置:ヤマト科学(株)流動造粒装置パルビスミニベットGA-21
ノズル:ノズル口径φ711μm
芳香油の温度:41〜45℃
ノズルエア圧:19.6Kpa(比較例3)、58.8Kpa(比較例4)、98.1Kpa(実施例2)の3段階
噴霧量:インスタントコーヒーに対して0.5重量%
噴霧した各インスタントコーヒー2gを温水140gで溶解し、30分間放置後、上澄みの溶解液を廃棄し、カップ底の沈殿量を比較評価した(図2)。
【0054】
図2A:19.6KPa で噴霧したインスタントコーヒーの沈殿量(比較例3)、
図2B:58.8KPa で噴霧したインスタントコーヒーの沈殿量(比較例4)、
図2C:98.1KPa で噴霧したインスタントコーヒーの沈殿量(実施例2)。
【0055】
図2より、比較例3および4のインスタントコーヒーは、溶解後に沈殿物が発生し、カップの底に沈殿物が見られた。ノズル圧の小さい比較例3の方が沈殿量が多かった。これに対し実施例2のインスタントコーヒーは、芳香油を98.1Kpaのノズル圧で噴霧して液滴サイズを90%積算径150μmにしたことにより、インスタントコーヒー溶解時の沈殿物が殆どなく、香品質に優れ、滑らかな口当たりであった。
【0056】
[参考例1]
沈殿物の物性
前記比較例3および4でカップ底に生じた沈殿物のうち、目視上気になるのは直径200〜300μm程度の大きさであった。このようなサイズの沈殿物をエチルエーテルで洗浄し、洗浄前後の沈殿物の状態を観察した(図3)。
【0057】
図3より、エチルエーテルで洗浄すると沈殿物が分散していることがわかる。したがって、カップ底の沈殿物は、粉砕後凝集したコロイド状コーヒーであることがわかった。コロイド状コーヒーの凝集物は、インスタントコーヒー噴霧時の液滴サイズを90%積算径150μmにすることで分散させて塗沫することが可能である。