【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図面を参照してこの発明の実施形態であるエンジン音加工装置について説明する。図1は同エンジン音加工装置のブロック図である。図2は同エンジン音加工装置のマイクおよびスピーカの取り付け位置を説明する図である。
【0023】
図2に示すように、エンジン音加工装置1は、2つのマイク10、マイク20を備えており、それぞれエンジンの吸気口およびエンジンルームの車室側の壁面にそれぞれ取り付けられている。エンジンの吸気口に取り付けられたマイク10は、主としてエンジンの吸気音を収音する。また、エンジンルームの車室側の壁面に取り付けられたマイク20は、主としてエンジンの爆発や回転等の動作音(以下、エンジン爆発音と言う。)を収音する。ただし、マイクの設置位置および個数はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、マフラー付近に取り付けて排気音を収音してもよいし、エンジンヘッド付近に取り付けてチェーン等の機械音を収音してもよい。
【0024】
なお、それぞれの位置に取り付けるマイクは、その設置位置により異なる音を収音することができるので、それぞれの設置位置においてさらに複数のマイクを取り付けて収音した音をミキシングするようにしてもよい。例えば、エンジンルームの車室側の壁面に取り付けるマイクは、その取り付け位置によりエンジンの異なる部分の動作音を収音することができる。したがって、マイクをエンジンルームの車室側の壁面に複数取り付けて、それぞれのマイクが収音した音をミキシングしてもよい。必要とする音質に基づいてミキシング比率を調整し、エンジン動作音を収音すればよい。
【0025】
また、マイクは音響マイクに限定されるもではない。例えば可聴帯域の振動をピックアップする振動センサ等であってもよい。この振動センサをエンジンに取り付ければ、エンジンの可聴帯域の振動を直接(音になる前に)収音することができる。すなわち、振動センサはエンジンの振動パルスを検出するのではなく、エンジンの音源としての信号をピックアップするものである。また、エンジンの吸気口に振動センサを取り付けることで、エンジン回転に関わらない風切り音等を収音することなく、純粋に吸気音のみを収音することが可能である。一方、マフラー付近は音響マイクを取り付け、エンジン回転次数に対応する周波数ピークを有する排気音を収音する。また、排気音を振動センサにより収音する場合は、マフラーの取付部付近に振動センサを取り付ける。このように、設置位置に応じて音響マイクと振動センサをそれぞれ取り付ければよい。
【0026】
車室内にはフロント左右およびリヤ左右の4個のスピーカ41が設置されている。このスピーカ41は、カーオーディオ機器のものであり、エンジン音加工装置独自のものではない。すなわち、このエンジン音加工装置は、エンジン音を収音して加工したのち、そのオーディオ信号をカーオーディオ機器5に入力し、カーオーディオ機器5を介して車室内にエンジン音を出力するようにしている。
【0027】
図1において、マイク10、マイク20は、それぞれアンプ11、アンプ21に接続されている。アンプ11、アンプ21は、それぞれマイク10、マイク20から入力された音声信号(吸気音、エンジン爆発音)を増幅する。増幅された音声信号は、A/Dコンバータ12、A/Dコンバータ22でデジタル信号に変換される。デジタル信号に変換された音声信号は、フィルタ13、フィルタ23で吸気音やエンジン爆発音をほとんど含まない不要な周波数帯をカットされる。また、信号レベルが大きすぎる場合には、このフィルタにおいてアッテネートされる。したがって、フィルタ13、フィルタ23は、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、アッテネータ等を組み合わせたもので構成すればよい。
【0028】
フィルタ13、フィルタ23で周波数帯域および信号レベルを制限された信号は、信号処理部2に入力される。信号処理部2では、マイク10で収音された吸気音およびマイク20で収音されたエンジンルーム壁面におけるエンジン爆発音の両方に対してそれぞれ別系統で2段階のフィルタ処理を実行する。なお、このフィルタ処理は、両方の信号をミキシングしたのち1系統で行うようにしてもよい。
【0029】
信号処理部2において、フィルタ14、フィルタ24は、車室壁面における遮音特性をシミュレートするフィルタである。すなわち、マイク10およびマイク20は、直接エンジンルーム内で音声を収音しているため、その音声信号は高音域の機械ノイズが高レベルで含まれており、運転者等の乗員が車室内で聴くエンジン音とはかけ離れている。このため、この音声信号を車室で聴くエンジン音と類似した音質(周波数分布)となるように、フィルタ14、フィルタ24で車室壁面の遮音特性をシミュレートし、低音域は残しつつ高音域をカットした音に加工する。この遮音特性は必ずしもこの装置が搭載される自動車の遮音特性をシミュレートする必要はなく、スポーツカーや高級車の遮音特性をシミュレートするものであってもよい。
【0030】
なお、このフィルタ14、フィルタ24のフィルタ特性(遮音特性)は、固定でもよいが、設定変更を可能にしてエンジン音の周波数特性を変えられるようにしてもよい。
【0031】
次段のフィルタ15、フィルタ25は、運転状況に応じて特性が変化するアクティブフィルタであり、エンジン音(マイク10、マイク20で収音した吸気音およびエンジン爆発音)を運転状況に応じて加工する。したがって、このフィルタ15、フィルタ25は、運転状況に応じてリアルタイムに特性が変化するアクティブフィルタである。このフィルタ特性の変化については後で説明する。
【0032】
2段のフィルタ14−フィルタ15、およびフィルタ24−フィルタ25から出力された吸気音およびエンジン爆発音はミキサ16でミキシングされて1系統の音声信号となり、D/Aコンバータ17でアナログのオーディオ信号に変換されて、カーオーディオ機器5に出力される。なお、この1系統の音声信号は、ステレオ出力(L/R)を含むものである。
【0033】
運転状況を検出するためのセンサとして、エンジンの回転数を検出するための回転数センサ30、アクセルの開角を検出するためのアクセル開角センサ31、自動車の速度を検出するための車速センサ32を備えている。各センサの検出値はインタフェース33を介して制御部3に入力される。インタフェース33は、必要に応じてA/Dコンバータを内蔵しているものとする。また、回転数センサ30、車速センサ32がエンジンの回転または車軸の回転に応じてパルスを出力するエンコーダの場合には、このパルスの積算値またはパルス間隔に基づいて制御部3がエンジンの回転数や車速を算出するようにしてもよい。
【0034】
制御部3は、このセンサ出力に応じて前記フィルタ15、フィルタ25のフィルタ特性を決定するパラメータおよびミキサ16のミキシング比率を決定する。制御部3は、この決定したパラメータおよびミキシング比率を信号処理部2に出力して、フィルタ15、フィルタ25およびミキサ16を制御する。
【0035】
制御部3には、操作部4が接続されている。この操作部4は、カーオーディオ機器5と共有であってもよく、オーディオ機器の操作部から信号を入力するようにしてもよい。利用者(運転者)は、この操作部4を操作して、運転状況(センサ30、センサ31、センサ32の出力)に応じたフィルタ15、フィルタ25、ミキサ16の制御特性を設定する。また、この操作部4を操作して、フィルタ14、フィルタ24のフィルタ特性(遮音特性)を設定する。
【0036】
すなわち、このエンジン音加工装置の制御系統を図示すると図3のようになる。操作部4の設定により、フィルタ14、フィルタ24、フィルタ15、フィルタ25、および、ミキサ16の制御特性が設定され、このうちフィルタ15、フィルタ25、およびミキサ16は、アクティブフィルタであって、センサ30、センサ31、センサ32の出力に応じてリアルタイムにその特性が制御される。
【0037】
操作部4によるフィルタ特性、ミキシング比率の設定は、各フィルタについて1または複数のパラメータをマニュアル操作で設定するようにしてもよく、予め1または複数のパラメータセットを制御部3に記憶しておき、そのパラメータセットのいずれかを選択して設定するようにしてもよい。複数のパラメータセットを準備する場合には、たとえば、スポーツカーのようなエンジン音効果が得られるパラメータセット、高級車のクルージングようなエンジン音効果が得られるパラメータセットなどを準備しておき、スポーツカーモード、クルージングモードなどのモード切り換えができるようにしておけばよい。なお、このエンジン音加工装置の機能をオフしてエンジン音効果を発生させないようにすることも当然可能である。
【0038】
また、フラッシュメモリやROMパックのコネクタを設けておき、パラメータセットをフラッシュメモリやROMから供給するようにしてもよい。また、カーナビゲーション装置のハードディスクから供給を受けるようにしてもよい。さらに、インターネットを介してパラメータセットをダウンロードできるようにしてもよい。また、LANコネクタなどを設けておき、このコネクタを介して接続されたコンピュータ(ノートパソコン)からパラメータセットの供給やパラメータのマニュアル設定ができるようにしてもよい。
【0039】
なお、上述したようにマイクの設置位置および個数はこの例に限定するものではない。図6は、さらに複数のマイク(例えば4個)を備えた例のエンジン音加工装置のブロック図である。なお、上述したエンジン音加工装置1と共通する構成要素には同様の符号を付してその説明を省略する。このエンジン音加工装置100は、マイク50、マイク60をさらに備えている。マイク50はエンジンの排気口(マフラー付近)に、マイク60はエンジンヘッドにそれぞれ取り付けられている。エンジン排気口に取り付けたマイク50は、エンジン排気音を収音する。またエンジンヘッドに取り付けたマイク60は、エンジンヘッドの機械音を収音する。マイク50、マイク60は、それぞれアンプ51、アンプ61に接続されている。アンプ51、アンプ61は、それぞれマイク50、マイク60から入力された音声信号(排気音、機械音)を増幅する。増幅された音声信号は、A/Dコンバータ52、A/Dコンバータ62でデジタル信号に変換される。デジタル信号に変換された音声信号は、フィルタ53、フィルタ63で不要な周波数帯をカットされる。
【0040】
フィルタ53、フィルタ63で周波数帯域および信号レベルを制限された信号は、ミキサ70に入力される。また、同様にフィルタ13、フィルタ23で周波数帯域および信号レベルを制限された信号(吸気音、エンジン爆発音)もミキサ70に入力される。ミキサ70は、4つの信号をミキシングした後2系統で信号処理部2に出力する。ミキシング比率は制御部3によって制御される。信号処理部2は、フィルタ処理を行う。4つの信号はあらかじめ決められたミキシング比率でフィルタ14、フィルタ24にそれぞれ出力してもよいし、利用者がマニュアルで設定してもよい。例えば、排気音の音声信号のみをフィルタ14に入力して、他の音声信号をフィルタ24に入力する。フィルタ14、フィルタ15では排気音の音声信号だけをフィルタ処理することができ、他の音声信号はフィルタ24、フィルタ25でフィルタ処理する。これにより、排気音を他の音よりもさらに強調することができる。このように、ミキシング比率を変更することで利用者の好みに応じて強調したい音を選択することが可能となる。
なお、設置するマイクの数に応じてフィルタを備え、それぞれの系統でフィルタ処理を行うようにしてもよい。
【0041】
次に、図4(A)〜(D)を参照してフィルタ15,フィルタ25の特性制御の一例について説明する。図4(A)〜(C)に示すグラフの横軸は周波数、縦軸はフィルタの周波数ゲインを示し、同図に表示するフィルタの周波数ゲインは以下のような特徴を有している。
【0042】
同図(A)は、エンジン回転数に基づく吸気音、エンジン爆発音のフィルタ制御特性を示しており、
(a) エンジン回転数が低いときは、低音を強調し、高音を抑制する。
(b) エンジン回転数が高いときは、低音を抑制し、高音を強調する。
というルールに基づくものである。
【0043】
同図(B)は、アクセル開角に基づく吸気音のフィルタ制御特性を示しており、
(c) アクセル開角が小さいときは、吸気音の低音を抑制する。
(d) アクセル開角が大きいときは、吸気音の低音を強調する。
というルールに基づくものである。
【0044】
同図(C)は、車速に基づく全体音量の制御特性を示しており、
(e) 車速が小さいときは、全体音量を小さくする。
(f) 車速が大きいときは、全体音量を大きくする。
というルールに基づくものである。
【0045】
同図(D)に示すグラフの横軸はアクセル開角値およびエンジン回転数、縦軸はミキシングウェイトを示している。同図(D)は、アクセル開角およびエンジン回転数に基づく吸気音、エンジン爆発音のミキシングウェイト制御特性を示しており、
(g) アクセル開角が大きくなるにつれて、吸気音のミキシングウェイトを大きくする。
(h) エンジン回転数が大きくなるにつれて、エンジン爆発音のミキシングウェイトを大きくする。
というルールに基づくものである。
【0046】
なお、ミキシング比率は、吸気音のミキシングウェイトとエンジン爆発音のミキシングウェイトの比率によって決定される。以上のルールは、「エンジンの回転数が低いときは大排気量のエンジンの雰囲気を出すために低音を強調し、エンジンの回転数が高いときはエンジンの高速回転を強調するために高音を強調するとともにエンジン爆発音のミキシングウェイトを大きくする。アクセル開角が大きいときはエンジンに負荷が掛かっているため、吸気音を大きくするとともにこの吸気音のミキシングウェイトを大きくする。車速が大きいときは、風切り音やタイヤノイズなどエンジン音以外のノイズが大きくなるため、全体の音量を大きくする。」という趣旨に基づくものであり、スポーツカーモードに相当するルールである。スポーツカーモードは、実際のエンジン音にさらにそのときの運転状況を強調するためのルールである。
【0047】
図5(A)〜(D)を参照してフィルタ15,フィルタ25の特性制御の別の例について説明する。これらの図は以下のような特徴を有している。
【0048】
同図(A)は、エンジン回転数に基づく吸気音、エンジン爆発音のフィルタ制御特性を示しており、
(a) エンジン回転数が低いときは、低音を抑制し、高音を強調する。
(b) エンジン回転数が高いときは、低音を強調し、高音も強調する。
というルールに基づくものである。
【0049】
同図(B)は、アクセル開角に基づく吸気音のフィルタ制御特性を示しており、
(c) アクセル開角が小さいときは、全帯域で強調、抑制をしない。
(d) アクセル開角が大きいときは、吸気音の低音部を抑制する。
というルールに基づくものである。
【0050】
同図(C)は、車速に基づく全体音量の制御特性を示しており、
(e) 車速が小さいときは、全体音量を小さくする。
(f) 車速が大きいときは、全体音量を大きくする。
というルールに基づくものであり、スポーツカーモードよりも全体音量は小さく制御する。
【0051】
同図(D)は、アクセル開角およびエンジン回転数に基づく吸気音、エンジン爆発音のミキシングウェイト制御特性を示しており、
(g) アクセル開角の大きさに関わらず、吸気音のミキシングウェイトを一定にする。
(h) エンジン回転数の大きさに関わらず、エンジン爆発音のミキシングウェイトを一定にする。
というルールに基づくものである。
【0052】
以上のルールは、「エンジンの回転数が低いときは静粛性を強調するために低音を抑制し、エンジンの回転数が高いときは大排気量の高級車のように落ち着いた雰囲気を強調するために低音を強調する。アクセル開角が大きいときは通常はエンジンに負荷が掛かっているために吸気音が大きくなるが、逆に吸気音の低音を抑制して静粛性を強調する。車速が大きいときは、風切り音やタイヤノイズなどエンジン音以外のノイズが大きくなるため、全体の音量およびエンジン爆発音を大きくするが、静粛性を重視するために微量にとどめる。また、エンジン回転数、アクセル開角によってはエンジン爆発音、吸気音のミキシングウェイトを変更しない。」という趣旨に基づくものであり、クルージングモードに相当するルールである。クルージングモードは、そのときの運転状況に比較してエンジン音は強調せずに、利用者に静粛な雰囲気を提供するためのルールである。
【0053】
なお、低音域、高音域の中心周波数は、エンジン音の周波数分布に基づいて決定すればよいが、一般的には、低音域の中心周波数は500Hz前後、高音域の中心周波数は1000Hz前後にすればよい。
また、フィルタ特性の制御ルールは上記のものに限定されない。
【0054】
以上のルールをフィルタ特性に的確に反映させるためには、たとえば、各センサ出力を変数にした関数を作成しておき、この関数にセンサ出力を入力してフィルタ特性曲線を求めるようにしてもよく、ファジィ推論によって求めるようにしてもよい。また、各センサ出力の所定ステップ毎にフィルタ特性を決定するテーブルを求めておき、センサ出力でこのテーブルを検索して該当するフィルタ特性を読み出すようにしてもよい。いずれにしても利用者によって設定される上記パラメータセットにはこのセンサ出力に基づいてフィルタ特性を求めるための情報が含まれているものとする。