【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図1は、基板上に形成した本発明における多孔質塗膜(ただし導電フィラーは混合されていない)を膜厚方向から切断した断面形状であり、図2は図1に示す前記多孔質塗膜を2−2線から膜面と平行な方向に切断し、その切断面を矢印方向から見た断面図、図3は、図1とは異なり、多孔質塗膜内に導電フィラーを混合した抵抗体を基板上に形成し、前記抵抗体を膜厚方向から切断した断面図である。
【0030】
図1に示す符号1は基板である。材質は図1に示す多孔質塗膜の材質や用途等によって種々変更される。例えば前記基板1は絶縁基板であり、耐熱性の高いポリイミド樹脂やアルミナ等の酸化物等で形成される。
【0031】
図1に示すように前記基板1上には多孔質塗膜3が形成されている。前記多孔質塗膜3は、バインダー樹脂を主成分として構成される。図1に示すように前記多孔質塗膜3の膜厚方向における断面の全体にわたって多数の気泡4が均一に分散して形成されている。
【0032】
ここで「均一に分散」しているか否かは、「森下の区画法」で定量化することが出来る。この方法によれば、写真を区画化した時の各区画に存在する気泡の存在状態から気泡の分散状態に凝集傾向があるか、あるいは規則的に分散しているかを規定することが出来る。
【0033】
「森下の区画法」では、区画を小さくするほど森下の指数が1よりも連続的に小さくなれば、それは規則的な分散状態(均一な分散状態)として定義される。
【0034】
図28は、区画の長さと森下の指数との関係を示すグラフである。実験には、バインダー樹脂として高分子量化ポリエーテルケトン(平均分子量は11000)、低分子量化ポリエーテルケトン(平均分子量は720)、高分子量化ポリエーテルケトンと低分子量化ポリエーテルケトンとを1:1(質量比)で配合したものに、バインダー樹脂に対して消泡剤を20質量%添加し、そのペーストを365℃で80分間焼成して得た塗膜を使用し、「森下の区画法」に則って、区画の長さと森下の指数との関係を導き出した。
【0035】
図28に示すように、区画を小さくするほど森下の指数は1を下回り、上記の試料は、いずれも規則的な分散状態(均一な分散状態)を示した。
【0036】
前記気泡4は前記多孔質塗膜3内に5〜30(vol%)の範囲内で含有されていることが好ましい。本発明では従来に比べて前記多孔質塗膜3内に占められる気泡4の体積分率を大きく出来る。一部の気泡4は前記多孔質塗膜3の表面3aや側面3cに現れるため、前記表面4及び側面3cはきれいな平坦化面ではなく、前記気泡4の一部が前記表面3a及び側面3cに露出した位置3bで前記表面3a及び側面3cは凹部形状になる。このため前記多孔質塗膜3の表面積を大きくすることが出来る。
【0037】
図1は前記多孔質塗膜3を膜厚と平行な方向から切断した断面図であるが、前記多孔質塗膜3を膜面と平行な方向から切断した図2においても前記気泡4は膜面方向の断面の全体にわたって均一に分散して形成されている。したがって本発明では、前記多孔質塗膜3を三次元的に見たときに、前記気泡4は、前記多孔質塗膜3の内部に全体的にわたって均一に分散して形成された状態になっている。
【0038】
前記気泡4は、前記多孔質塗膜3の内部において略球形状で存在している。このため前記気泡4の断面は図1,図2に示すように略円形状で現れる。前記気泡4の大半は断面形状が略円形状である。一部の気泡4は断面形状が楕円形状であったり、あるいはやや角張った形状であったりするが、特に図1に示す多孔質塗膜3のように導電フィラーを混合していない塗膜内においては前記気泡4の大半はきれいな円形状の断面形状で現れることが後述する実験で証明されている。
【0039】
前記気泡4の平均直径は0.5μm〜2μmの範囲内であり、非常に小さい。後述する消泡剤が前記気泡4を微細な径に分散する働きをしているのではないかと思われる。
【0040】
図1に示す多孔質塗膜3の材質は、主成分としてバインダー樹脂と消泡剤の成分とを有してなり、導電フィラーは混合されていない。
【0041】
前記バインダー樹脂の平均分子量は720〜11000であることが好ましい。前記バインダー樹脂の平均分子量は、前記多孔質塗膜3内に形成される気泡4の平均直径や、体積分率に影響を与える。前記バインダー樹脂の平均分子量が大きくなると前記気泡4の平均直径や体積分率が小さくなることが後述する実験で証明されている。
【0042】
前記バインダー樹脂の平均分子量が11000を越えると、前記バインダー樹脂が有機溶剤に溶けにくくなりペースト(前記多孔質塗膜3の中間生成物)を適切に形成できないことから好ましくない。
【0043】
前記バインダー樹脂には熱硬化性樹脂を用いることが好ましく、具体的にはポリエーテルケトン(PEK)樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、キシレン変性フェノール樹脂等が選択される。さらにポリエステルやフェノキシ樹脂等の熱可塑性樹脂を使用してもよい。
【0044】
前記バインダー樹脂に前記ポリエーテルケトン樹脂を用いる場合、分子量が720のポリエーテルケトン(以下、分子量が720のポリエーテルケトンを低分子量ポリエーテルケトンと呼ぶ)のみを用いるか、あるいは分子量が11000のポリエーテルケトン(以下、分子量が11000のポリエーテルケトンを高分子量ポリエーテルケトンと呼ぶ)のみを用いるか、または前記低分子量ポリエーテルケトンに、高分子量ポリエーテルケトンを所定の配合比で混合したものを用いることが好ましい。
【0045】
また図1に示す多孔質塗膜3にはさらに消泡剤の成分が含有されている。前記消泡剤はペーストを形成する段階では、低沸点のトルエン等に、例えば界面活性剤を混ぜた溶液状のものであり、前記ペーストを焼成等して図1に示す多孔質塗膜3となった段階では前記トルエン等は揮発して前記塗膜3内には前記消泡剤の一部の樹脂成分のみが残された状態になる。例えばペーストを形成するとき、トルエン等にアクリレート系共重合体樹脂を混合した消泡剤を用いており、多孔質塗膜3となった段階では前記共重合体樹脂のみが前記塗膜3中に残される。
【0046】
図1に示す多孔質塗膜3中において、前記消泡剤の樹脂成分は前記バインダー樹脂の質量に対して1.5〜17(質量%)の範囲内で含有されていることが好ましい。本発明における前記消泡剤のバインダー樹脂の質量に対する添加量(質量%)は従来に比べてかなり大きい値である。本発明では前記消泡剤をペーストの段階で従来に比べて大量に混合する点に大きな特徴点がある。後述する実験によれば前記消泡剤の添加量(バインダー樹脂の質量に対する添加量(質量%))を大きくすればするほど前記気泡4の塗膜3中における体積分率を大きく出来ることがわかっている。
【0047】
消泡剤を構成する樹脂成分(上記した共重合体樹脂)を前記多孔質塗膜3中に前記バインダー樹脂の質量に対して1.5〜17(質量%)程度含有させれば、前記多孔質塗膜3中に前記気泡4を5〜30(vol%)の範囲内で含有させやすい。また前記気泡4の平均直径を0.5〜2μmの範囲内に適切に制御できる。
【0048】
図3は、図1及び図2と異なって、多孔質塗膜5中に導電フィラー6が混合されている。図3の多孔質塗膜5はバインダー樹脂と、消泡剤の樹脂成分と前記導電フィラー6とを有して構成されている。
【0049】
前記多孔質塗膜5には内部全体にわたって気泡4が均一に分散して形成されている。前記気泡4は、前記塗膜5の表面5aや側面5cに一部現れ、その部分での前記表面5aや側面5cは凹部形状となっている。この結果、前記多孔質塗膜5の表面積は従来に比べて大きくなる。
【0050】
本発明では前記多孔質塗膜5を抵抗体として用いることが出来る。上記のように前記多孔質塗膜5の表面積を大きく出来ることから、前記多孔質塗膜5を抵抗体として使用したときに、センシングデバイスとして抵抗変化を大きくすることが出来、感度のよいセンサを形成できる。
【0051】
図3に示す多孔質塗膜5を例えば湿度センサーやガスセンサーとして用いることが期待できる。前記バインダー樹脂として用いられる例えばポリエーテルケトン(PEK)樹脂にガスを吸着できるような官能基を付加させることができれば、ガスセンサーとして有効利用できる。また湿度センサとしてはポリエーテルケトンよりも脱水縮合型のフェノール樹脂をバインダー樹脂として用いることが好ましいと考えられる。また抵抗体を多孔質化すればするほど、相対湿度に対する抵抗値変化率やエタノール濃度に対する抵抗体変化率が増大する。
【0052】
また本発明における多孔質塗膜3,5を増感型太陽電池や燃料電池の電極、光触媒のバインダー、あるいはフィルター材等として使用することも期待できる。
【0053】
図3に示す多孔質塗膜5に含有された導電フィラー6の材質は、その用途によって変更することが出来る。例えば前記導電フィラー6は、カーボンブラック(アセチレンブラックやファーネスブラック、ケッチェンブラック)やカーボンファイバー、グラファイト、金属粒子、金属酸化物粒子等である。
【0054】
図1ないし図3に示した多孔質塗膜3,5は、ペーストをスクリーン印刷法等によって印刷形成し焼成して成るものである。
【0055】
前記多孔質塗膜3は、有機溶剤にバインダー樹脂と消泡剤とを混合したペースト、前記多孔質塗膜5は、有機溶剤にバインダー樹脂と消泡剤と導電フィラーとを混合したペーストを、スクリーン印刷等によって基板上に形成し焼成したものである。
【0056】
前記ペーストの材質等について以下に説明する。本発明では、前記ペースト内に、前記消泡剤を、前記バインダー樹脂の質量に対して5〜50(質量%)の範囲内で混合している点に大きな特徴点がある。
【0057】
前記消泡剤は、前記ペースト中に混合するとき、トルエン等の溶剤に界面活性剤等を溶かした溶液状態であり、この消泡剤を上記した割合で前記ペースト中に混合する。消泡剤は例えばトルエンに、アクリレート系共重合体樹脂を混合したものである。
【0058】
また前記バインダー樹脂の平均分子量は720〜11000の範囲内であることが好ましい。
【0059】
前記バインダー樹脂の平均分子量が11000を越えると、前記バインダー樹脂は有機溶剤に溶けにくくなり、一部ゲル化状態を引き起こす。また前記ペースト内に導電フィラーを混合させる場合、前記導電フィラーも前記ペースト内に適切に混ざらなくなる。
【0060】
前記バインダー樹脂には熱硬化性樹脂を用いる。具体的にはポリエーテルケトン(PEK)樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、キシレン変性フェノール樹脂等が選択される。
【0061】
前記バインダー樹脂に前記ポリエーテルケトン樹脂を用いる場合、分子量が720の低分子量ポリエーテルケトンのみを用いるか、あるいは分子量が11000の高分子量ポリエーテルケトンのみを用いるか、または前記低分子量ポリエーテルケトンに、高分子量ポリエーテルケトンを混合したものを用いることが好ましい。
【0062】
本発明では上記のように前記消泡剤を、ペースト中の前記バインダー樹脂の質量に対して5〜50(質量%)の範囲内で混合している。この消泡剤の割合は従来に比べて非常に大きい。従来では、前記消泡剤を1〜3(質量%)程度しか混合しなかった。
【0063】
後述する実験結果に示すように、前記消泡剤をペースト中に上記割合で混合し、焼成することで形成された図1,3の多孔質塗膜3,5中には、0.5〜2μmの平均直径を有する断面形状が略円形状で、しかも5〜30(vol%)の割合で気泡4が塗膜3,5中の全体にわたって均一に分散していることが確認された。
【0064】
消泡剤は、一般的に塗膜3,5中に気泡が残らないようにするために添加されるものであるが、前記消泡剤を従来よりも多く添加すると、気泡が消えるどころか、微小な気泡が多数前記塗膜3,5中に発生したのである。本発明のように消泡剤を多く入れすぎると、前記消泡剤は前記気泡を細かく多量に分散させる働きが強まり、前記気泡が前記塗膜3,5内から抜けきれずにそのまま塗膜3,5中に残ってしまったものと考えられる。
【0065】
上記したように前記ペースト内に混合される消泡剤の添加量は、多孔質塗膜3,5中に形成される気泡4の平均直径や体積分率を規定する上で重要なファクターであるが、前記平均直径や体積分率は前記バインダー樹脂の平均分子量にも左右されることが後述する実験結果によって明らかにされた。
【0066】
上記したように本発明ではポリエーテルケトンなどの熱硬化性樹脂を用いて構成されるバインダー樹脂の平均分子量は720〜11000の範囲内であることが好ましい。前記平均分子量が11000より大きくなると、前記バインダー樹脂が有機溶剤に溶けにくくなったり、また導電フィラーを混合させるときは前記導電フィラーが効果的に混ざらないので、前記平均分子量を11000以下と規定した。
【0067】
前記バインダー樹脂の平均分子量を720未満にすると、有機溶剤に樹脂を溶解したときの粘度があまりにも低くなり過ぎ、ペースト化できなくなるので、前記バインダー樹脂の平均分子量は720以上であることが好ましい。前記バインダー樹脂の平均分子量を720〜11000の範囲内とすると、多孔質塗膜3,5中に発生した気泡4の平均直径を0.5〜2μmの範囲内、塗膜3,5中に占める前記気泡4の体積分率を5〜30(vol%)の範囲内に適切に規制しやすい。
【0068】
上記したように前記ペーストを基板上にスクリーン印刷し、その後、前記ペーストを焼成することで有機溶剤や、消泡剤を構成していたトルエン等の溶剤が揮発し、これら溶剤は前記塗膜3,5中に残らなくなる。また前記バインダー樹脂は硬化する。したがって前記塗膜3,5中にはバインダー樹脂と、焼成によって揮発しなかった消泡剤を構成する一部の樹脂成分(共重合体樹脂)、さらには図5の塗膜5を形成する場合には導電フィラーが残されることになる。
【0069】
ところで後述する実験結果によれば、前記焼成温度によっても気泡4の塗膜3,5中に占める体積分率が変動することが確認された。なお前記気泡4の平均直径はさほど焼成温度によって変動しなかった。
【0070】
本発明では前記焼成温度は200〜380(℃)の範囲内であることが好ましい。390℃以上になると、ポリエーテルケトンが特性劣化を起こすと思われるので、焼成温度は380℃以下であることが好ましい。
【0071】
また上記範囲内にすることで、塗膜3,5中に占める前記気泡4の体積分率を5〜30(vol%)の範囲内に適切に規制しやすい。
【0072】
前記焼成温度は好ましくは340℃〜380℃の範囲内であり、特殊なケースの抵抗体に適用したときに、例えばKCPの端子剥離等の問題や代替樹脂との特性劣化の比較から340℃を下限値とした。
【実施例】
【0073】
本発明における製造方法を用いて形成された多孔質塗膜(実施例)、及び従来における製造方法を用いて形成された塗膜(比較例)の断面をそれぞれTEMで撮影したものが図4ないし図13であり、図14ないし図19は、図4ないし図7、図9,図10の各TEM写真の一部分を模式図的に作図したものである。
【0074】
なお図4ないし図6に示す各塗膜はいずれも有機溶剤にバインダー樹脂としてポリエーテルケトン樹脂と、消泡剤[トルエンに、アクリレート系共重合体樹脂を32.8(質量%)添加したもの]とを混合したペーストを基板上にスクリーン印刷し、その後365℃で80分間焼成させて形成されたものである。
そして得られた塗膜を膜面と平行な方向から切断し、その断面をTEMで撮影した。
【0075】
図4に示すTEM写真(実施例)は、ペースト状態の時に、前記消泡剤をバインダー樹脂の質量に対して20質量%添加し、またバインダー樹脂としては分子量が720のポリエーテルケトン樹脂を用いて成る多孔質塗膜の断面写真である。図14は図4の一部分を模式図として表わしたものである。
【0076】
図4,図14に示すように塗膜内には断面が略円形状の気泡が多数、膜面と平行な方向に全体にわたって均一に分散発生しており、各気泡は約1μm〜2μm程度の直径を有していることがわかった。
【0077】
図5に示すTEM写真(実施例)は、ペースト状態の時に、前記消泡剤をバインダー樹脂の質量に対して20質量%添加し、また分子量が720のポリエーテルケトン樹脂と平均分子量が11000のポリエーテルケトンとを1:1の比率(質量比)で構成したバインダー樹脂を用いて成る多孔質塗膜の断面写真である。図15は図5の一部分を模式図として表わしたものである。
【0078】
図5,15に示すように、塗膜内には断面が略円形状の気泡が多数、膜面と平行な方向に全体にわたって均一に分散発生していることがわかった。しかも前記気泡の直径は図4のものに比べて小さく、約0.5〜1μmの直径を有する気泡が多く見られた。
【0079】
図6に示すTEM写真(実施例)は、ペースト状態の時に、前記消泡剤をバインダー樹脂の質量に対して20質量%添加し、またバインダー樹脂としては分子量が11000のポリエーテルケトン樹脂を用いて成る多孔質塗膜の断面写真である。図16は図6の一部分を模式図として表わしたものである。
【0080】
図6,16に示すように、塗膜内には断面が略円形状の気泡が多数、膜面と平行な方向に全体にわたって均一に分散発生していることがわかった。しかも前記気泡の直径は、図5よりもさらに小さくなり、直径が1μmを越える気泡はほとんど見当たらなかった。
【0081】
次に、図7から図9に示す塗膜はいずれも有機溶剤にバインダー樹脂としてポリエーテルケトン樹脂と、消泡剤[トルエンに、アクリレート系共重合体樹脂を32.8(質量%)添加したもの]と、アセチレンブラック(焼成後の抵抗体と膜に対して16.5vol%添加)とを混合したペーストを基板上にスクリーン印刷し、その後365℃で80分間焼成させて形成されたものである。
そして得られた塗膜を膜面と平行な方向から切断し、その断面をTEMで撮影した。
【0082】
図7に示すTEM写真(実施例)は、ペースト状態の時に、前記消泡剤をバインダー樹脂の質量に対して20質量%添加し、またバインダー樹脂としては分子量が720のポリエーテルケトン樹脂を用いて成る塗膜の断面写真である。図17は図7の一部分を模式図として表わしたものである。
【0083】
図7,図17に示すように塗膜内には断面が略円形状の気泡が多数、膜面と平行な方向に全体にわたって均一に分散発生していることがわかった。ただし前記気泡の形状は、図4ないし図6に比べてきれいな円形状では無く、前記円形状から一部が崩れた形状のものが多く見られた。また図7,図17に示す黒い部分(0.05μm程度の不定型粒子)は導電フィラーである。
図7,図17に示す前記気泡の直径は、1μmから2μmのものが多く見られた。
【0084】
図8に示すTEM写真(実施例)は、ペースト状態の時に、前記消泡剤をバインダー樹脂の質量に対して20質量%添加し、またバインダー樹脂としては分子量が11000のポリエーテルケトン樹脂を用いて成る多孔質塗膜の断面写真である。なお図8については模試図の作成を行っていない。
【0085】
図8に示すように塗膜内には断面が略円形状の気泡が多数、膜面と平行な方向の全体にわたって均一に分散発生していることがわかった。気泡の形状は図7に比べてきれいな円形状であった。なお図8において0.05μm程度の大きさの黒く写っている部分が導電フィラーである。
【0086】
図8に示す前記気泡の直径は、図7に比べて非常に小さくなり、1μmを越える直径を有する気泡はほとんど見当たらなかった。
【0087】
図9に示すTEM写真(実施例)は、ペースト状態の時に、前記消泡剤をバインダー樹脂の質量に対して40質量%添加し、またバインダー樹脂としては分子量が720のポリエーテルケトン樹脂を用いて成る多孔質塗膜の断面写真である。図18は図9の一部分を模式図として表わしたものである。なお図18には導電フィラーの模写を省略した。
【0088】
図9,図18に示すように塗膜内には断面が略円形状の気泡が多数、膜面と平行な方向の全体にわたって均一に分散発生していることがわかった。気泡の形状は図7とよく似ており、円形状から一部が若干崩れた形状の気泡が多く見られた。
【0089】
前記気泡の直径は図7の気泡の直径に比べて大きいものが数多く存在し、2μmを越える直径を有する気泡が存在した。また、塗膜断面での気泡の面積占有率は、図9の方が図7より大きくなっていたことがわかった。
【0090】
図10に示す多孔質塗膜は有機溶剤にバインダー樹脂としてフェノール樹脂と、消泡剤[トルエンに、アクリレート系共重合体樹脂を32.8(質量%)添加したもの]と、カーボンブラック(抵抗体塗膜に対して10vol%添加)とを混合したペーストを基板上にスクリーン印刷し、その後200℃で30分間焼成させて形成されたものである。
【0091】
そして得られた多孔質塗膜を膜面と平行な方向から切断し、その断面をTEMで撮影した。
【0092】
図10に示すTEM写真(実施例)は、ペースト状態の時に、前記消泡剤をバインダー樹脂の質量に対して20質量%添加して成る塗膜の断面写真である。図19は図10の一部分を模式図として表わしたものである。なお図19において導電フィラーの模写は行っていない。
【0093】
図10,19は、図4ないし図9と異なって、バインダー樹脂にフェノール樹脂を用いたが、図4ないし図9と同様に、多孔質塗膜内には断面が略円形状の気泡が多数、膜面と平行な方向に全体的にわたって均一に分散発生していることがわかった。前記気泡の断面形状はきれいな円形状のものが多く見られた。また前記気泡の直径は1μm以下のものが多く見られた。なお、バインダー樹脂にキシレン変性フェノール樹脂や、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂を使用した場合、あるいはポリエステルやフェノキシ等の熱可塑性樹脂でも多孔質化が確認されている。
【0094】
図11に示すTEM写真(実施例)は、図7に示す多孔質塗膜を膜厚と平行な方向から切断し、その切断面をTEM写真で撮影したものである。図の右上側が多孔質塗膜の表面側であり、図の左側が基板との接触面である。図11を見てわかるように気泡は膜厚と平行な方向にも全体的に均一に分散発生していることがわかった。
【0095】
図12のTEM写真は比較例である。図12に示す塗膜は有機溶剤にバインダー樹脂としてポリエーテルケトン樹脂(分子量720)を溶解したものを基板上にスクリーン印刷し、その後365℃で80分間焼成させて形成された塗膜である。すなわち前記ペースト内に消泡剤を混合していない。
そして得られた塗膜を膜面と平行な方向から切断し、その断面をTEMで撮影した。
【0096】
図12に示すように、塗膜中にはほとんど気泡は発生しておらず、若干発生している気泡もその断面形状が円形状ではなく歪な形状で現れた。
【0097】
図13のTEM写真は比較例である。図13に示す塗膜は有機溶剤にバインダー樹脂としてポリエーテルケトン樹脂(分子量720)を溶解したものを基板上にスクリーン印刷し、その後365℃で80分間焼成させて形成された抵抗体塗膜である。前記ペースト内に消泡剤を1質量%(バインダー樹脂の質量に対し)だけ混合した。
そして得られた塗膜を膜面と平行な方向から切断し、その断面をTEMで撮影した。
【0098】
図13に示すように、塗膜中にはほとんど気泡は発生していないことが確認された。
図4ないし図19の実験結果から次のことが導き出せる。まず消泡剤をペースト内にバインダー樹脂の質量に対して20質量%あるいは40質量%添加して成る多孔質塗膜には、断面が略円形状の気泡が全体的に均一に分散発生することである。
【0099】
また消泡剤の添加量は一定(20質量%)でバインダー樹脂の平均分子量を変化させた図4から図6の各実施例、及び図8、図9の各実施例を比較してみると、バインダー樹脂の平均分子量が大きくなるほど、気泡の直径は小さくなることがわかった。これはバインダー樹脂の平均分子量が大きくなると、有機溶剤に溶解した樹脂の粘度が大きくなり、その中に発生する気泡は樹脂に阻害されて移動・合体もしくは成長がしにくくなり、その結果、微細な直径の気泡となって塗膜中に残るものと考えられる。
【0100】
また図7ないし図11に示すように、導電フィラーを混合した多孔質塗膜内でも、断面が略円形状の気泡は発生したが、その形状は、導電フィラーを混合していない図4ないし図6の実施例に比べて若干円形状から崩れた形状として発生しやすいことがわかった。
【0101】
また図12の実施例で示したようにバインダー樹脂にポリエーテルケトンではなくフェノール樹脂を用いた場合も同様に断面が略円形状からなる気泡が膜中全体に均一に分散発生することがわかった。
【0102】
また図11の実施例で示したように、多孔質塗膜の膜厚と平行な方向の断面にも前記気泡は全体的にわたって均一に分散発生しており、すなわち前記気泡は前記多孔質塗膜を三次元的に見たときにその内部全体にわたって均一に分散発生していることがわかった。
【0103】
次に図20は、有機溶剤にバインダー樹脂としてポリエーテルケトン樹脂(分子量720)と、消泡剤[トルエンに、アクリレート系共重合体樹脂を32.8(質量%)添加したもの]とを混合したペーストを基板上にスクリーン印刷し、その後365℃で80分間焼成させて塗膜を形成し、前記塗膜中に発生した気泡の平均直径を、前記消泡剤の添加量(質量%)との関係から求めたグラフである。
【0104】
グラフの横軸は消泡剤の添加量であるが、上段に記載された数値は、ペースト内に混合されたときのバインダー樹脂の質量に対する添加量(質量%)を示し、下段の括弧書きで記載された数値は印刷・焼成工程を経て塗膜となったときの前記バインダー樹脂の質量に対する含有量(質量%)を示している。
【0105】
ペースト状態から塗膜を形成する際には上記のように焼成工程を経るので、消泡剤を構成していたトルエン等の溶剤は揮発し、その結果、塗膜中に残される消泡剤は上記の共重合体樹脂の量だけになる。以下、特に断わらない限り消泡剤の添加量を記載するときはペースト中に混合される消泡剤の添加量(すなわち図20に示す横軸の上段の数値)を指すものとする。
【0106】
図20に示すように前記消泡剤の添加量を大きくすると消泡剤の添加量がほぼ40質量%をピークにして気泡の平均直径が大きくなることがわかった。
【0107】
図21は、前記消泡剤の添加量と、塗膜内での気泡の体積分率(vol%)との関係を示すグラフである。図21に示すように前記消泡剤の添加量を増やしていくと、それに伴って前記気泡の体積分率も大きくなることがわかった。
【0108】
図20及び図21に示すグラフから、ペースト内に混合される消泡剤の添加量をバインダー樹脂の質量に対し5〜50(質量%)程度、添加することと規定した。これにより塗膜中には前記気泡を5〜30(vol%)の体積分率で取り込めることが可能になり、また前記気泡の平均直径を0.5〜2(μm)の範囲内に収めることが出来ることがわかった。
【0109】
消泡剤をバインダー樹脂の質量に対して50質量%よりも多く添加すると、逆にバインダー樹脂の相対的な量が少なくなり、また塗膜中に占める気泡の体積分率も30(vol%)を超えることで、塗膜の強度は低下し、耐環境性が劣化した塗膜しか製造できなくなってしまう。
【0110】
一方、前記消泡剤の添加量をバインダー樹脂に対して5(質量%)より小さくすると、膜中に占める気泡の体積分率が5(vol%)を下回り、また気泡の平均直径も非常に小さくなることから、前記塗膜の内部全体にわたって均一に前記気泡を分散形成できず、適切に多孔質化できない。
【0111】
なお上記のようにペースト内に混合される消泡剤の添加量をバインダー樹脂の質量に対し5〜50(質量%)の範囲内で添加すると、塗膜中には、前記消泡剤を構成する一部の樹脂成分(共重合体樹脂)が残り、その量は各グラフの横軸の下段に示されているように、約1.5〜17(質量%)の範囲内で残されることになる。
【0112】
図22に示す実験では、試料として有機溶剤にバインダー樹脂としてポリエーテルケトン樹脂と、消泡剤[トルエンに、アクリレート系共重合体樹脂を32.8(質量%)添加したもの]をバインダー樹脂の質量に対し20質量%と、アセチレンブラックを16.5(vol%)、混合したペーストを基板上にスクリーン印刷し、その後365℃で80分間焼成させて塗膜を形成した。
【0113】
実験では、前記バインダー樹脂を分子量が720である低分子量ポリエーテルケトン樹脂のみで構成した場合と、前記低分子量ポリエーテルケトンと、分子量量が11000の高分子量ポリエーテルケトンとを1:1の比率(質量比)で構成した場合のそれぞれにおいて実験を行った。
【0114】
図22に示すように、バインダー樹脂を低分子量ポリエーテルケトンと高分子量ポリエーテルケトンとを1:1で配合した塗膜の方が、バインダー樹脂を低分子量ポリエーテルケトン樹脂のみ構成した塗膜に比べて塗膜中に発生する気泡の平均直径が小さくなることがわかった。
【0115】
また図22に示すように、バインダー樹脂を低分子量ポリエーテルケトンと高分子量ポリエーテルケトンとを1:1で配合した塗膜であると、気泡の平均直径はばらつきも含めて1μm以下に収まることがわかった。
【0116】
図23は、低分子量ポリエーテルケトン樹脂のみで構成した場合における塗膜中に発生した気泡の体積分率と、前記低分子量ポリエーテルケトンと、分子量が11000の高分子量ポリエーテルケトンとを1:1の配合比(質量比)で構成した場合における、塗膜中に発生した気泡の体積分率とを比較したグラフである。
【0117】
図23に示すように、バインダー樹脂を低分子量ポリエーテルケトンと高分子量ポリエーテルケトンとを1:1で配合した塗膜の方が、バインダー樹脂を低分子量ポリエーテルケトン樹脂のみで構成した塗膜に比べて塗膜中に発生する気泡の体積分率が小さくなることがわかった。
【0118】
このように、バインダー樹脂に高分子量ポリエーテルケトンを添加していくと塗膜中に発生する気泡の体積分率と大きさとが小さくなるように制御できることがわかった。
【0119】
図24に示す実験では、試料として有機溶剤にバインダー樹脂としてポリエーテルケトン樹脂と、消泡剤[トルエンに、アクリレート系共重合体樹脂を32.8(質量%)添加したもの]をバインダー樹脂の質量に対し20質量%、混合したペーストを基板上にスクリーン印刷し、その後365℃で80分間焼成させて塗膜を形成した。
【0120】
実験では、前記バインダー樹脂として、分子量が720である低分子量ポリエーテルケトン樹脂に分子量が11000の高分子量ポリエーテルケトンを異なる比率(質量比)で混合した上記塗膜を形成し、前記バインダー樹脂全体にする高分子量ポリエーテルケトンの比率と前記塗膜中に発生した気泡の平均直径との関係を調べた。
【0121】
図24に示すように、高分子量ポリエーテルケトンの比率が大きくなると塗膜中に含まれる気泡の平均直径は徐々に小さくなることがわかった。
【0122】
また図25は、バインダー樹脂全体にする高分子量ポリエーテルケトンの比率と前記塗膜中に発生した気泡の体積分率との関係を測定した実験結果である。
【0123】
図25に示すように、前記バインダー樹脂に対する高分子量ポリエーテルケトンの比率が大きくなると塗膜中に含まれる気泡の体積分率は徐々に小さくなることがわかった。
【0124】
このようにバインダー樹脂の平均分子量によって前記塗膜中に含有される気泡の平均直径や体積分率をコントロールできることがわかった。
【0125】
図26は、試料として有機溶剤にバインダー樹脂としてポリエーテルケトン樹脂(平均分子量は720)と、消泡剤[トルエンに、アクリレート系共重合体樹脂を32.8(質量%)添加したもの]をバインダー樹脂に対し20質量%、混合したペーストを基板上にスクリーン印刷し、その後、焼成温度を変化させながら塗膜を形成した場合の、前記焼成温度と前記塗膜中に含有される気泡の平均直径との関係を示したグラフである。なお焼成時間は全ての試料において80分に統一した。
【0126】
図26に示すように、焼成温度を上げていくと前記気泡の平均直径は徐々に大きくなっていくが、その変化は緩やかで、焼成温度を340から380℃で変化させた範囲内では前記気泡の平均直径はさほど大きく変化しなかった。
【0127】
図27は、前記焼成温度と塗膜中に発生した気泡の体積分率との関係を示すグラフであるが、焼成温度を340℃から380℃まで上昇させていくと、それに伴い前記気泡の体積分率も大きくなることがわかった。
【0128】
前記焼成温度の規制は、前記気泡の平均直径よりも体積分率をコントロールするのに有益であることがわかった。
【0129】
本発明では図27に示す実験結果に基づき前記焼成温度を340〜380℃の範囲内に規定することとした。これにより前記気泡の塗膜中における体積分率を5〜30(vol%)の範囲に適切に制御できることがわかった。また焼成温度を380℃以下にするとポリエーテルケトン樹脂そのものの強度の劣化を抑制できる。なお気泡は焼成温度を200℃程度まで低下させても存在するものと考えられる。